もはや洋服選びの古典『CHEAP CHIC』を再読する

clothing

今から約50年ほど前、1975年にカテリーヌ・ミリネアとキャロル・トロイという2人の女性によって、”Cheap Chic : Hundreds of Money-Saving Hints to Create Your Own Great Look”という本が発刊されました。それから数年後”チープ・シックーお金をかけないでシックに着こなす法”というタイトルで日本語版が発刊されます。翻訳を手掛けたのは「スローなブギにしてくれ」で有名な、あの片岡義男さんです。その後、現在まで何度も重版され読まれ続けているロングセラーとなっています。

私がこの本と出合ったのは19歳の時でした。当時からひねくれ者だった私は、ファッションは好きだったものの、毎年トレンドを打ち出してくるブランドや、今の倍以上の種類があったファッション雑誌に何か胡散臭さを感じてた日々・・・。今ほどは人気がなかった、ヨーロッパ古着やサープラスを好んで着ていた私にとって、この本の内容はすっと身体に入ってくるものでしたし、色々なモヤモヤを吹き飛ばしてくれました。

『ファッション業界が発信する情報なんかに振り回されず、自分に合った上質な服を着ましょう』

チープシックというのは、決して安いファストファッションを着ましょうという意味ではありません。多少価格が高くても、自分にあった上質で、何年も着続けられるような服を選び、じっくり服と向き合いましょう。服を自由に自分のものにして着こなしましょうと、この本では提唱しています。かといって、高級ブランドの服を着なさいと言っているわけでもありません。そんなことを書いている本が50年も読み続けられるわけはないですからね。一般的に出回っているリーバイスのジーンズやヘインズのTシャツのようなベーシックを大切にしつつ、古着屋やアーミーショップなどで売られている商品なんかも上手に取り入れながら、自分のスタイルを築いていきましょうということです。

当時から生まれつつあった消費主義へのアンチテーゼとも読めますし、それは資本主義の限界が顕在化しつつある現代にも大いに参考となる内容ではないかと思います。

なぜ今再読する価値があるのか?

この本が発売された当時と現在とで変わったこと。変わっていないことがあります。

まず当時と大きく異なるのは我々消費者が得ることができる情報量の圧倒的な多さです。

雑誌という媒体は衰退期に入ってますが、インターネットを介した情報量は、雑誌からのそれを量の点では圧倒的に凌駕してます。質という点でも業界人が発信しているような、良質なYouTubeチャンネルが少なからず存在し、そこからは専門的な情報を得ることができます。

その一方で自分自身のスタイルとは何か?という本質を見つめなおすうえで、あまりにも情報量が多いために自分を見失いがちな時代でもあるのではないでしょうか。どんな服がその人にとって良くて、あるいはダメだのか。そんなことは人によって様々ですので、色んな情報を得ただけでは自身のスタイルを見つけることはできないのです。

そして変わっていないこと。

下記は序文からの引用です。

「ファッションの大量生産と大量マーケティングによって、まちがった、ろくでもないファッションが私たちの衣装ダンスの中に大量につめこまれています」

“Cheap Chic : Hundreds of Money-Saving Hints to Create Your Own Great Look”

また翻訳を手がけた片山さんはこの本を読んだ感想としてこう述べてます。

「馬鹿げたものがあまりに多すぎるいま、この本は、とても単純だけれども重要なことに目をむけなおすきっかけになると、ぼくは思う。」

“『チープシック』お金をかけないでシックに着こなす法”

発刊から半世紀が経とうとしてる今でも、ろくでもないファッションや馬鹿げたものが溢れる状況は変わっていないように思います。その一方でSDGsという概念に端を発するような、不必要なものを作ったり買ったりすることは悪であるというような考え方も徐々に広まっている。2010年あたりに発生したミニマリズムという考え方もその一例でしょう。

多くのモノが溢れかえっているなかで、どうやって自分らしい1着を見つけていくか。この本を読むことが自分のスタイルというものを考えるうえで、とても役に立つと思います。

具体的に何が書かれているのか?

この本でまず訴えているのはベーシックやクラシックといったことを大事にしましょうということです。特にこの本のなかの一章、「ほんとうにクラシックなもの」という章に書かれた内容は、その後の私に強い影響を与えています。

仕立てのいい、最高の品質の服で、その服じたいに人の注目を集めたりしない服。そして、6年や8年では流行おくれになったりはしない服。それがほんとうにクラシックな服です

“Cheap Chic : Hundreds of Money-Saving Hints to Create Your Own Great Look”

誰もが毎シーズンついつい手に取ってしまう服というのがあると思います。どう着こなせばよいのかが身体が覚えていて、何も考えずに着こなせる服。試行錯誤しながら、そういったベーシックを探していきましょうと言っています。

またお金を使うポイントにメリハリをつけることも推奨しています。具体的には革のブーツやバッグ、アクセサリーなどにはお金を費やし、メンテナンスしながら長く使った方が長期的にはお得というわけです。この辺りは現代にも浸透している考え方のように思います。

そのうえでスポーツウェアをMIXさせることや、エスニックなアイテムを取り入れることなどで、自分らしさを出しましょうということも提唱してます。現代は当時以上に何でもMIXさせる時代ですから、この感覚も分かりやすいですね。

またそもそも服以前に、自分の身体を大切にしましょうとも書かれています。

自分の肉体のあらゆる部分がとても健康だというのが、いまはとっても大事なのよ。顔、髪、そしてボディ…このベーシックがきちんとするまでは、服のことなんか忘れてしまいなさい

“Cheap Chic : Hundreds of Money-Saving Hints to Create Your Own Great Look”

『Harper’s Bazaar』やUS版『VOGUE』の編集長を務めたダイアナ・ヴリーランドさんの言葉。

ボロを着てても心は錦ではないですが、服をあれこれ気にするよりまず自分自身を見直しなさいという指摘は今の自分の胸にも刺さる言葉です。

私が学生時代に感銘を受けてインターンシップを志願した、あるファッション・ディレクターの方は、高級スーツを着てカップラーメンを啜っているような人を酷評していました。

服ばっかりに気を取られて、それ以外の食をはじめとする、生活全般の質を疎かにすることに苦言を呈されていたのですね。

この考え方は『CHEAP CHIC』の本質にも通じるものであると思います。

まとめ

今回はブログ最初に記事として『CHEAP CHIC』の本を紹介しました。

最初に紹介した理由や、上記で書いたように本の内容が自分の服選びに大きく影響を与えているからです。

ではこの本を読んだ後、それをどう自分の服選びに生かしたらよいのか?

それはこのブログのメインテーマでもありますので、今後少しずつ記事にしていけたらと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました